ヘッドインとヘッドアウト②

お預かりホイールを続けて研究させて頂きます。

先ずスポークの状態を見ます。グラフにするとわかりやすいのでいつも先ずグラフです。

スポークテンションは緩くてバラつき偏差値が高いです

状態がよくわかります。前輪は後輪と違い駆動には影響ありませんので緩いのかもしれません。

表をじっと見ますと先ず思いつくのは前輪のスポークテンションがとても緩く、ばらつきも大きいです。タイヤなしで約70kgf前後のテンションです。ホイールはクリンチャーホイールアルミですのでタイヤインストールしますとタイヤビードが影響してスポークテンションは10~20%下がります。ばらつきが大きいスポークテンションでしたら一部のスポークが50kgを割る可能性があります。緩いと問題です。

スポークテンションのバラつきと緩さが一番ホイールにとってスポークが折れたりニップルが飛んだりする原因になります。

現にお客様からの話では、特別に粗い乗り方をしたわけでもないのに2回ニップルが飛んだということを伺っています。ニップルはアルミなので破断することはブラスより多いのは事実ですが緩いスポークも原因の一つではないでしょうか?

ホイールのスポークはサピムのCX-RAYです。地面からの振動を吸収してくれるスポークですので乗り味は柔らかいです。柔らかい乗り味を狙って作っているのでしょうが何故ここまで緩いスポークテンションで仕上げるのかがわかりません。

73kgfは使えるテンションですが、私は緩いと思います。一般には100kgf前後で仕上げるといわれています。しかし正解はありませんのでこれが正解ですといわれると正解であるところがホイールです。

どの教科書を見ても(外国の本ばかりで日本語の教科書はありません)この数値が最適ですと書かれていません。しかしシマノからは発表されています。

先日、お客様よりご存知ですか?とシマノがホイールの適正テンションを表にして発表していると教えていただきました。これがその表です。シマノのディーラーマニュアルの16ページに掲載されています。

これはネットにアップされていますのでいろんな情報がよくわかり勉強になります。私はこの表を見落としていました。

シマノディーラーマニュアルより

シマノが発表している数値から考えますとお預かりホイールはギリギリOKですが通常は緩いと思います。

私には緩いと思いますが表を教えていただいたお客様はご自分でもホイールを組まれますので別の方法で調整されています。

先ず一番高い数値で組んでいろいろ乗ってみてゆっくり好みの数値にテンションを下げて調整する方法です。

私は大体このテンションと決めてしまいますがあとで微調整する方法もいいですね。ホイール組が出来る上級者ならではの方法です。

スポークテンションを均等に約100kgfで仕上げています

ホイールは上図のようにテンションを調整してお返ししました。どのように変わったかがわかるように引き取り時と調整後のグラフを添えています。

ヘッドインとヘッドアウト

あるビルダーさんの組まれたホイールを点検する機会を得ました。

ビルダーさんの作った前輪ホイールはヘッドインで作っています。CX-RAYで組まれています。

前輪ホイールを見ますとラジアル組ですが一般的な組み方ではありません。

ホイール組は外国の本で勉強しましたので呼び方はカタカナ英語の言い方で述べます。

左右のフランジ幅は70mmのハブです。ヘッドインで組まれています。ヘッドイン、ヘッドアウトというのは見た目からです。

スポークの通し方で決まります。スポークをハブの外側から内側に通して組む方法がヘッドアウトです。スポークを内から外側に通して組み上げるのがヘッドインです。

私のクロスバイク前輪ホイールはヘッドアウトで作っています。私も少し贅沢にサピムのCX-RAYです。

同じハブで作りましてもヘッドインとヘッドアウトでスポークの角度が若干違います。以下壁を支えるツッカイ棒の角度のような話をいたします。

このブレイシングアングルは計算ができますが、簡便にはスポーク長の計算ソフトで角度を知ることができます。下図は計算ソフトを利用してブレイシングアングルを出しています。

フランジ幅を外側から計測
ハブフランジの外側からハブセンターまで計測した数値で出したブレイシングアングル
フランジ幅を内側より計測
ハブフランジの内側からハブセンターまで計測した数値で出したブレイシングアングル

今回のハブではヘッドインでは7.2度、ヘッドアウトでは6.3度という結果が出ています。

0.9度の違いがあるのですがホイールの性能にどのくらい影響するのかはわかりません。

角度が多いほうが支えることが支える力が高いと思うのですがどのくらいよくなるのかはわかりません。まあよくなるのでしょう。

ではハブに与える影響はどうでしょう。

ハブを外から締め付けるような作り方になるのでリムのERDが短いと角度がつきますので支える力が強くなるのですがハブのフランジ角度次第ではハブフランジに余計な力が加わることになります。つまりハブを傷つけてしまうのではと心配します。

そんなに大きな影響を与える角度ではないのですがさあどっちがいいのでしょう?

フランジ幅がもっと広いバイテックスハブRAF12なら80mmの幅があるのでブレイシングアングル角度は8.1度になり横剛性は確かに高くなると思います。10mmの違いは大きいです。

TNIのエボリューションハブのようにフランジ幅が70mmのハブならヘッドインとヘッドアウトのブレイシングアングル角度差は0.9度ですので効果はよくわからないです。しかし見た感じは大きく変わります。造りが違うと主張しているように見えます。見た目も大切です。

完組ホイールはヘッドアウトで作る方法が一般的です。ほとんどのホイールメーカーがこの方法なのです。お預かりホイールのようにヘッドインはブレイシングアングルがわずかといえども大きくなるので横剛性を高める効果があると思うのですがどうなんでしょう?作るのに時間が掛かる割には効果がないとホイールメーカーは判断しているのかもしれません。

パワータップハブの交換依頼がありました②

パワータップハブを交換しました後輪はお返ししました。

ハブ交換後のホイールです。
ハブ交換後のスポークテンショングラフ

グラフをお付けして納品していますのでご依頼いただきました時の状態とはあまりの違いに驚かれたようです。

このような話はどうしても自慢話になってしまいますのでいつも記事にはどうかと迷うのですがビルダーでホイール性能は違うということを知っていただきたいと思います。。

お客様はとても礼儀正しい方なのでビルダーさんの情報はお教えいただいていません。ただハブの組み換えをしてほしいということでした。

さて、前輪も心配になられたので見てほしいと再度ご依頼を受けました。

前輪のスポークを調整します。

お送りいただきましたホイールは振れもないきれいに回るホイールでした。

いつものようにテンションを点検します。

調整前のテンショングラフです

グラフにしますとよくわかります。見た目ではわかりません。

ホイールのスポークテンションは平均約50kgfで張られています。とても緩いです。タイヤインストール前でこれではとても危険です。

スポークは強弱、強弱とバランスはとれて張っています。これで振れが出ていないのです。

通常、クリンチャータイプのリムはタイヤインストールしますとタイヤビードの影響でスポークテンションは10~20%下がります。お預かりホイールは強弱、強弱でスポークは張られていますので緩いところのスポークは30kgf以下になるところが出てきます。

スポーク折れは緩いスポークに起こりやすいので30kgf以下に下がったスポークは強い衝撃でスポークが折れ、ニップルが破断する可能性がとても高くなります。安全性が一番大切なのにこれではとても心配です。

私が普段使っているカーボンリムメーカーの推奨するスポークテンションは

前輪が100~120kgf

後輪ドライブ側が125~135kgf

としています。メーカーは違いますが大体どのメーカーも同じと考えています。

今回お預かりの前輪は平均50kgfですのでメーカー推奨テンションの約半分です。

以下、点検して気になるところを書かせていただきます。

カーボンホイールを作れるビルダーさんなのでテンションメーターは持っておられると思います。ひょっとして校正していないメーターなのかもしれません。パークツールのメーターならば20%くらい狂っているのはよくあることです。

また、振れを取ったからこれで終わりということではありません。均一にスポークを張ることも大切です。テンションのバラつき偏差値はとても高い数値です。

使われているスポークはDTのレボリューションです。軽量ですが扱いがとても難しいスポークです。レボリューションはサピムのLaserと同じ種類のスポークで2.0/1.5/2.0mmの形状です。サピムのホームページではプライヤーなどでスポークの回転防止をしながら組まないといけないと書かれていますが今回のお預かりホイールのスポークにはプライヤーなどで抑えた傷がありません。これではスポークのテンションが緩いのはよくわかります。きつく締めあげるとスポークがねじれますがこれをやらずに組み上げています。スポークがゆるいはずです。

調整後のスポークはテンションです。均一に張っています。

人様が組んだホイールを観察させていただきますとよくわかります。辛口でホイールを評価しましたが自分のホイールに反映させ、いいホイ―ルを提案する動機付けとなります。

納品後お客さまより連絡が入りました。もうこの自転車屋さんに行くことはないそうです。

パワータップハブの交換依頼がありました

お客様より連絡がありました。

見た目はきれいに組まれたホイールです。振れもありません。
リムは国内の部品屋さんで調達されたそうです。
穴なしリムですが私の使っているメーカーではありません。

後輪カーボンホイールのパワータップを交換してほしいとのことです。穴なしリムで作られたカーボンホイールです。ハブを壊してしまい依頼されたビルダーさんにハブ交換を頼まれたのですがなかなか動いてくれないとのことでした。

当初は頼まれたビルダーさんにお願いすることが一番いいですとお伝えしました。

お返事ではなかなか取り掛かってくれなく数か月待っているということでした。業を煮やして私のほうに連絡があった次第です。

持ち込みの仕事は失敗すると弁償しないといけないことがあります。難しいことが多くありますので先ずお送りいただいて直せるかどうかをお返事しますということで納得いただきました。

後輪ホイールと新しいパワータップハブが送られてきました。

品物を確認しますと取り換えできないことはないことが分かりました。失敗しても弁償できると考えましてお受けしますとお返事しました。

お送りいただきましたホイールは以下の通りです。

リムメーカーは分かりませんが国内の部品屋さんで取り寄せられたそうです。ハブはパワータップハブG3、スポークはDTのレボリューション2.0/1.5/2.0mm黒、ニップルはアルミニップルという構成です。

いつもお預かりの時はスポークテンションを確認します。お預かり時のスポークテンションは次の通りでした。

スポークテンションが緩すぎるところがありグラフにできません。

とても緩い仕上がりです。通常ハブの構造から左スポークテンションは緩いものですがお預かりホイールは右が緩いので相対的に左も緩い仕上がりになります。一ヶ所はゆるすぎてテンションメーターで測れないくらいのゆるゆるでした。

グラフからわかりますが後輪右ドライブサイド約90kgf、左非ドライブサイド約36kgfと本当に驚きの数値です。しかし見た目はきれいな仕上がりで振れもありません。スポークをぐっと握ればゆるゆるですが見た目はきれいな状態です。

たくさんホイールを乗り比べておられる方はよくわかることですが、カーボンホイールが初めての方にはわからないことだと思います。私の感想をお知らせしまして驚かれました。

私も20年ほど前にホイールをあるショップに依頼した時のことを思い出します。出来上がった時はうれしくて乗っていたのですが2,3回乗って後輪スポークが折れました。ビルダーさんにもっていったのですが乗り方が悪いということで工賃を請求されたのです。何?工賃と怒ったのですがこれがきっかけでホイール作りにのめりこむようになりました。

閑話休題、

人様が作られたホイールをあーだ、こーだと批判するのはよくないと思っています。しかしながら今回のお預かり品はちょっとひどいと思いました。穴なしリムを扱えるのですからそれなりの技術があるビルダーさんと思います。本当に残念です。

お客様はとても礼儀正しい方でビルダーさんの詳しい話などは一切されません。

果たして失敗しましても弁償出来ることを確認しましたのでハブの組み換えをお受けしました。併せてアルミニップルからブラスニップルに交換も提案しました。やはり丈夫なブラスニップルがいいと思います。

作り直しを行いながら考えました。何故ビルダーさんは部品が揃っているのになかなか手をつけなかったのでしょうか?面倒な作業だから?すぐにできるのに勿体つけるために?いろんな事情があるにしましても数か月もお待たせするなんでひどいな、いろんなこと考えながら作業を進めました。

ブラスニップル分が重くなりました。右ハブは交換前のハブです。
スポークテンションはできるだけ均等にしています。右側を高くして相対的に左を上げています。

出来上がりのホイールの見た目はお預かり時点と同じです。違う点はスポークを均等に張っているところ、ブラスニップルで少し重くなりました。

ハブのセンターオフセット値が大きいので左スポークテンション値は高くできませんが出来るだけ右のテンションを上げて相対的にテンションを高める方法を取っています。もちろん均等にスポークを張ることが大切です。

お客様に報告しますと前輪も心配なので見てほしいとのことでした。お預かりすることにいたしました。後輪がどのように変わったか教えていただけるのが楽しみです。

タイヤ空気圧の問い合わせがありました

36mm高ディスクカーボンホイールをお求めいただきましたお客様よりタイヤの空気圧の問い合わせがありました。

リムメーカーではホームページで発表していますので詳しく知るには調べられたら良いのですが抜粋してお知らせいたしました。

以下その情報です。

体重と空気圧との関係です

お客様の体重から考えますとタイヤ空気圧は高すぎたようです。そんなに下げても良いのかと驚かれていました。

せっかくのカーボンホイールですのでお勧めの空気圧を知っておいてあとはご自分の好みに調整していく方法がいいのではないかと思います。私は低めが好みなので推奨気圧より1気圧ほど低いです。

特定メーカーの宣伝をするつもりはありません

空気圧計はポンプに付属品でもいいのですが専用品を持っていても良いのではないでしょうか?そんなに高価な物ではありません。タイヤは重要で乗り味は大きく変わります。空気圧もその一つです。

多スポークホイールのおすすめ

このブログで頻繫に取り上げます多スポークホイールの紹介です。

見た目は重そうなホイールです。

先ず重量を試算してみます。積算しますとだいたいの重量がわかります。

 品名単品重量g数量重量合計g
XR31T/RT 28/32h4902980
ノバテックハブA291SB 28h F482SB32h3101310
前輪スポーク Laser528140
後輪左スポーク Laser51680
後輪右コンペティション61696
nipple16060
1666g

前輪 28h 729g
後輪 32h 940g

見た目は重そうなホイールですが実際の重量も前後で1669gと軽量です。

シマノアルテグラホイールWH6800では前輪705後輪944g前後1649gです。ほぼ同等の重量です。

以下、詳しく述べます。

リムは24mm幅31mm高のアルミリムです。後輪は3mmオフセットのリムです。リムセンターが3mmずれることにより11速による左スポークテンションの低下を補正しています。

ハブは台湾のノバテック製を使います。前後で約300gと非常に軽いハブでベアリング交換も容易です。

リムは台湾のキンリン社リムです。前述のように31mm高ですので空力もあります。約490gと決して軽いリムではありませんがリム剛性が高いので踏み込んだ力が逃げにくい優秀なリムです。

スポークはサピムのLaserを前輪と後輪左に使用しています。後輪右側のドライブサイドにはDTのコンペティションを剛性強化のために使います。

組み方ですが前輪は左右2クロス組、後輪は左右3クロス組で組んでいます。オーソドックスな組み方です。

後輪をオフセットリムで組んでいますので11速に伴う左スポークのテンション低下を補っています。ニップル穴が真ん中のリムより10%ほど上がります。これはとても大きいメリットです。

タイヤ選択はリムが24mm幅のワイドリムですので23mmから25,28mmと使えます。タイヤの幅の105%のリム幅が一番空力での効率が良いとされる105%ルールから考えますと23mm幅のタイヤが意外とよい選択なのかもしれません。

また、チューブレスレディーリムですのでチューブレステープを巻きましてバルブ、シーラントを用意すればシューブレスホイールとして使用できます。

ほぼ同じ重量のアルテグラホイールと比較してスポーク数が大きく違います。前後16h・20hではスポークは太いスポークを使います。スポークの太さで剛性を高めています。

方やこの多スポークホイールではスポークを細くして本数を増やしています。

スポーク面積で比較しますとよくわかります。少スポークのホイールのスポーク面積と多スポークホイールのスポーク面積の比較です。

完組ホイールでは下図のように少ないスポークで剛性を維持しています。手組多スポークホイルではスポークを細くして完組ホイールと同じスポーク面積になるようにしています。この点が大きな違いです。

  スポーク数スポーク数スポーク数スポーク数
スポーク面積16202832
1.5mm1.7728.3235.449.5656.64
1.8mm2.5440.6450.871.1281.28
2.0mm3.1450.2462.887.92100.48

この多スポークホイールのおすすめポイントはロングライドに最適な点です。地面からの振動はホイール、ハンドルと伝わります。長時間のライドにはこの振動で疲れるのです。軽量スポークのLaserやCX-RAYで作った多スポークホイールの良さはスポークが地面からの振動をショックアブソーバーの働きで和らげることができます。細いスポークが振動をやわらげるのでロングライド向きホイールということになります。

もちろん剛性のあるリムを使っていますので踏み込んだ力は逃げにくいホイールです。スポークが多いので見た目はモダンホイールではありませんがクラシックな姿からクロモリフレームにはとても相性が良いと思います。

見た目はおとなしいホイールです。残念ながら3G組のように一目見てわかるカッコよさ

ありません。しかし実質本位のコスパが高いホイールです。用途の多いオールラウンドホイールとして使っていただけます。わかる人ならわかるホイールです。

ホイール調整後のご感想

36hのホイール調整後ホイールをお返ししてから乗られた感想をお送りいただきました。

お預かり時点の後輪スポークテンション
調整後の後輪です。各スポークを均一になるように仕上げています。

以下ご連絡いただきましたメールそのままです。

36Hのホイールに乗ってみました。

1~2kmくらい巡航が速くなったような進むような…こちらはプラセボの所為かもしれません。

硬い輪っかに乗ってるような気もしますが、こちらもプラセボかもしれません。

乗り心地は若干硬いのかもですが、よく分からないレベルです。

違うと思ったのはアンダーパスを登る時に通常アウター×19Tで登りますが

アウター×17Tで同じくらいに登れたことです。

今までもたわみとか感じたことは無かったのですが駆動効率が上がっているのかもしれません。

完組に近くなったような気がします。

今は思い込みがあると思うので、明日も乗ってみます。

2回目のご感想です。

36Hのホイールですが、駆動効率向上しているようです。

通勤で家からサイクリングロードまで出て幹線道路までの平均速度が25.5とか25.8キロでした。

これまでは追い風に助けられないと出なかったので、微風に助けられたとはいえ

少なくとも1キロくらいは平均速度が上がっていると思います。

乗り心地と回り方にも慣れてきました。これが回転体という感じでしょうか。

ご感想から判断しました。確かにスポークテンションの調整で駆動効率は上がったようです。スポークの張り具合でホイールは確かに変わります。やはりテンションの均一化を図ることが重要です。

「手組ホイールの限界」というキーワードでネット検索しますといろんな方々がブログで発表されています。ビルダーさんのブログは勉強になります。結論的には手組ホイールを良くする方法はスポークテンションを揃えることが一番の近道のようです。

アルミニップルの破断

3年前にお買い上げいただきましたお客様よりご連絡がありました。XR31T/RT20・24hのホイールをお買い上げいただきました方よりニップル破断の連絡をいただきました。

お写真とともに状況をお知らせいただきました。

お怪我がなくて本当によかったです。

ホイール自体はとても具合が良く気に入っていただいています。実はお客様のホイールは2回目です。こんなことがあるのです。前回は後輪でした。今回は前輪です。

ビルダーとしまして恥ずかしいことです。アルミニップルの欠点を十分知っていたつもりでしたが正しく対処できていませんでした。

右のニップル以上に突き抜けたほうが良いと思います。

スポークがニップルを突き抜けるほどの長さでないとアルミニップルでは強度を保てません。

突き抜けるとやはり下手なビルダーと思われると考えていました。このためスポーク長をニップルのすり割りギリギリのところで長さを決めていました。やはりこれがだめでした。アルミニップルは突き抜けないと強度を維持することはできません。

ニップル破断はこれで5回目です。500本ほどホイールを作っていますので約1%です。ニップル破断を考えますとやはりもうこれでアルミニップルを使うことをはやめました。

使う場合は十分アルミニップルの欠点を十分ご説明して使うことにしています。スポーク長も長めにしてニップルから突き抜けるようにすることを説明しています。しかしほとんどの方はアルミの弱点を説明しますとブラスにされます。ブランドメーカーもニップルはトラブル防止のためブラスにしていますと説明しますとブラスにされます。

DTSquorxPro ブラス

お送りいただきましたホイールのニップルはすべてDTSquorxProブラスに交換しました。スポーク長も計算しなおしまして1mm長くしました。30gほど重量は増えるのですが安心感はぐっと増しました。 スポークのテンションを表したグラフをそえてお返しいたしました。

前輪スポークテンショングラフ
後輪スポークテンショングラフ

ご連絡をいただきました。今お持ちのレー3よりもよく走ると気に入っていただいています。お怪我がなくて本当に良かったです。

バルブ3個目でうまくいく

7月になって立て続けにチューブレスレディーホイールのパンクが続きました。テープが破れるリム打ちパンクでした。

①テープを貼り替え

②タイヤをきれいにする

③シーラントを入れる

チューブレスレディーホイールは少なくても3つの作業をこなさないといけません。どの作業も大切です。一つでも手を抜くとうまくいきません。

今回2本パンク修理を行いました。どのホイールも3項目に注意してやり替えました。2本ともうまくビードが上がり修理は終わったのですが1本はうまくいきました。しかしもう1本は1日経つと空気が漏れて2気圧になってしまいます。

また一からやり直しです。タイヤを外して、シーラントを抜いて、テープを貼り替えます。

3つの手順を守って作業します。バルブも変えました。ビードが上がり空気を入れて一日置いて見ました。

空気圧を測りますとまた2気圧に減っています。

きれいにテープを貼っていますので考えられるところはタイヤのシーラント滓が原因と考えました。もう一度きれいにタイヤをほとんど新品状態になるまできれいにしました。

また空気を入れて一日様子を見ました。

やはり2気圧に減っています。

バルブ3個目で成功しました

もうバルブしかないと考えました。新しいバルブを入れてやり直しました。果たして今度はうまくいったようです。空気圧は6気圧入れて5.2気圧に減っています。これなら妥当なところです。

3回目でやっとうまくいきました。新しいバルブでもうまくいかないときがあります。

そんなときはバルブを疑うことも必要です。

チューブレスホイールは本当に大変です。私は性能のほうを優先しますのでチューブレスタイヤを使っていますがクリンチャーに戻られる方が多いのはよくわかります。うまくいかないときはバルブです。

ホイール調整のご依頼

通勤やロングライドに愛用されている手組ホイールの状態を知りたいというご連絡が入りました。

私はいつもスポークテンションが揃っていることが大切とこのブログに書いています。このテンションの一致にとても興味を示された方からのご依頼です。

今乗っておられるホイールを調整しますとどのように変わるのかを知ることは私にとっても勉強になりますのでテンション調整をお受けすることにしました。

前輪 915g
前輪DURA HB-7900 36h 左右3クロス組
後輪 1036g FH-7900 36h
Duraハブは丈夫で美しいですね。左右3クロス組です。

お預かりしましたホイールはマビック36穴オープンプロに36穴Duraハブ、スポークはDTチャンピオンにブラスニップルという構成です。

いつもホイールをお預かりしますとスポークテンションを点検いたします。グラフにしました。

以下ホイールを点検しました。

前輪

お預かりの時状態

センターはしっかりと出ています。驚くばかりです。
センターがよく出ています。

きれいに組まれています。目視では縦、横の振れはありません。センターも驚くばかりドンピシャです。

スポークテンション

スポークテンションが約60kgfです。とても緩い仕上がりです。スポークテンションは強弱、強弱でバランスが取れています。

スポークテンションは約58kgfと緩い仕上がりです。緩いテンションはスポーク折れの原因になりますのでもう少し高いほうが良いと思います。

一般には前輪は100~110kgf、後輪右110~120kgfが良いとされています。

各スポークを計測しました。バラつきがとても多い仕上がりです。各スポークが強弱、強弱とバランスが取れているので振れが出ていないのです。お預かり時のスポークテンションをグラフにしています。

各スポークにばらつきが多いホイールは長い期間使用すればスポーク折れの原因になります。今まで折れなかったのはスポークが太くて36本あるので各スポークへの負担が分散されて負荷が少なかったと思います。

リムテープを少しめくってスポークの長さを見ましたが適正でした。

作業

各スポークテンションを約100kgfにあげてしっかりと揃えています。

各スポークのテンション調整を行いスポークのテンションを揃えできるだけ均一になるようにします。振れは最小に、テンションは最大限均一に、このような作業を行います。

最後にスポークの緩み止めのためロックタイト220を各ニップルに一滴注いでいます。固着しないタイプですので簡単に緩めることができます。

後輪

お預かり時の状態

下写真と比べたらセンターが少しずれているのがわかります。
左非ドライブ側に約0.5mmずれています。しかし問題なく乗れるのは確かです。

きれいに組まれています。振れもありません。センターが少しずれています。

スポークテンション

強弱、強弱と続いています。これでバランスが取れています。一ヶ所ゆるゆるでグラフにならない箇所があります。

スポークテンショングラフで見ることにしました。各スポークのテンションを測りますとよくわかりますがバラつきが非常に大きいです。後輪も強弱、強弱の連続です。強弱、強弱とバランスが取れていますので振れが出ていません。この理由で見た目ではきれいにできています。ホイールは見た目ではわかりません。

ホイールが回り、力が各スポークに加わりますとばらつきスポークが原因で駆動効率は下がります。加わる力が一定でも受ける側のスポークにばらつきがあるので均一に力が伝わりません。しかしこれらの違いがわかるのは高速時で低速ではあまり分からないと思います。

スポークが36本あるのは非常に強力で欠点が目立ちにくいです。グラフでもわかりますが1ヶ所ゆるゆるのスポークがあるのに乗れています。多スポークホイールの良いところが出ています。

作業

後輪です。各スポークを均一になるように仕上げています。

●スポークのバラつきが大きいので先ずこれを是正します。

ドライブ側と非ドライブ側とは少しずらしています。下写真と少し違います。
ほんの少し非ドライブ側に寄せています。

●センターがずれていますので先ずセンターを出してからほんの少し非ドライブ側(左側)に寄せるように調整します。0.2mmくらいが良いかと思います。タイヤをインストールしますとリムは右に寄りますので事前に少しだけ寄せておいてスポークの調整をします。

●各スポークテンションのバラつき偏差は5%以内に収めます。

●最後にロックタイト220を各ニップルに少し注いで固定します。スポーク、ニップルを痛めることはありません。固着しないので緩めることも容易です。

まとめ

お預かり時と修正後は見た目は同じです。振れもほとんどありません。

後でホイールはご自分で作られたのですかと伺いますと自転車屋さんにオーダーされたそうです。振れ取りができれば完成と思われている方が多いのは事実です。あと一歩足りないのが残念です。

各スポークを見直し、スポークテンションを均一になるように調整しました。

恐らく乗り味はスポークテンションを上げましたので少し硬くなった用に感じられると思います。これはホイール剛性が上がったということではありません。スポークテンションと剛性とは別の問題です。ホイールの剛性はスポークの総面積に比例しますのでテンションを上げたから剛性が高まるということではありません。

乗り味が変わったのか、あまり変化はないのかインプレを教えていただけると思いますので楽しみです。